2009年8月11日号




 

 

アルプス山脈東部、イタリアとオーストリアの国境の地域はご存知のようにチロル地方と呼ばれます。チロル地方はアルプスの分水嶺に端を発した清流が長い年月をかけて削った沢山の渓谷が連なり、針葉樹のレッドスプルースとラーチの鮮やかな緑の森と豊かな草原の風景が美しい夏、常緑の森が深い雪をかぶった色のコントラストがクリスマスカードの絵のような冬と、一年を通じて自然が美しい地方です。
夏風景
冬風景

私の仕事場、 AD WORLD のミラノ事務所から北東に車で約3時間のチロル地方フィエンメ渓谷は、良質のレッドスプルースとラーチを世界中に供給する木材の産地です。この地域の針葉樹は雪に閉ざされる厳寒の冬と湿度が低く爽やかな夏という恵まれた環境のおかげで、木目と色が均質で密度が高く強度と粘りのある、まさしく建材や家具に適した材料が伐採され、大型構造材や屋根材の集成材、ログハウス、ウッドサッシ、フローリング、家具などに加工材されます。

チロル地方では昔から木の伐採、丸太や製材の販売が経済を支えてきました。当然、木こりは昔からとても重要な仕事で、いつどの木をどの辺からどう切ればいいのか、と言う事を口承で次世代に伝えてきたそうです。近年、営林署によって木の生育や伐採は厳しく管理されていますが、その管理方法には昔からこの地方に伝わる木こりの知恵が多く取り入れられています。
例えば、下弦の月から新月の間に切った木は害虫がつきにくく形状変化が無く腐らず、さらに防炎性能もあると言います。なんで月が関係あるの?と最初は半信半疑でしたが,営林署の証明書にすら下弦の月伐採と書いてあるのでそれなりの理由はあるんだろうな、と思っていたところ、ある本 を紹介されました。日本でも訳本が出版されています。
単なる山の迷信ではなかったんですね!!驚きです。

この月の満ち欠けと木の性質の関係はスイスの大学でも研究され、要因の科学的証明はまだ出来ていないものの効果は実証されたそうです。不思議ですね。
で、興味を持ってしまった私が調べたところ、チロル地方には「月による森林管理の会」というのまで有り、毎年求める木の性質による伐採カレンダーも発表されています。2009年のカレンダーによると、道具を作る為の材料は12月の新月から8 日後の間の水瓶座と魚座の日の間に切ると良く、防炎性の高い木は3月1日の日没後、3月の新月の最後の2日間、天秤座の期間の新月の期間、12月の新月の1日前が良い ---- などなど12用途別に伐採するべき日が記されています。

そう言えば、イタリア人は夏の終わりから秋にかけてよくキノコ狩りを楽しむのですが、知り合いのキノコ狩りのプロおばさんもよく「今は月が下弦だからキノコがたくさん採れるよ」」とか言ってたっけ。。。これも何か関係あるんでしょうね。このキノコ狩りおばさんはポルチーニキノコ専門で、私も数回わけてもらいました。爽やかな山の夏に採れる新鮮なポルチーニきのこは生のまま薄切りにしてオリーブオイルと塩と粗挽き黒こしょう、またはオリーブオイルとパルメザンチーズの薄切りと一緒に頂いても大変風味が強くおいしいです。

話が木からキノコにずれてしまいましたが、最近気になるのはこのフィエンメ渓谷で伐採されるレッドスプルースとラーチです。


 ラーチ(欧州カラマツ)


イタリアのチロル地方には数はレッドスプルース程ではないのですがラーチも多く生育します。チロル地方の人々に最も好まれるフローリングはこのラーチ材です。特に節のあるものが好まれます。最近はミラノなどの都市部でも、モダンな白壁空間にラーチのナチュラルな節有りフローリングを組み合わせてスカンジナビアのような雰囲気を出すインテリアが商業施設、住宅ともに好まれています。カッコいいですよ。
チロル地方ではまた、ラーチを住宅の外壁サイディングやフェンスなど外部に多く使います。耐久性が高く腐りにくく、外気に触れて変色してくるグレーの自然な古木の色がいい趣の、イタリア人が好んで使う木です。

チロル地方の天気予報にはラーチのてっぺんの枝を使います。それぞれの画像の中央あたりに見える細いラーチの枝が上向きだと明日は晴れ、下向きだと雨、真ん中だと雨のち晴れ。木が如何に温度や湿度で動く生き物なのかよくわかりますね。新聞やTVの天気予報よりも正確です。
明日は晴れです
 


 レッドスプルース

チロル、フィエンメ渓谷の木の代表はレッドスプルースです。建材、家具に多く使われますが、フィエンメ渓谷レッドスプルースを世界中に有名にしているのはヴァイオリン、ヴィオラなどの楽器です。あのストラディヴァリウスのヴァイオリンの表板と魂柱にもこのフィエンメ渓谷のレッドスプルースが使われており、今も世界中の優れたヴァイオリン工房ではフィエンメ渓谷産の証明書のついたレッドスプルース材を使っています。

北米の西海岸の街で手作りマンダリンを作っているスタンという知り合いがいて、彼のマンドリンはブラジリアンローズウッドとカーリーメープル(背板画像の素材です)が主材料なのですが、フィエンメ渓谷のレッドスプルースも良いんだよね、って言ってました。音の響きがいいんですね。 彼のマンドリンは完全手作りなので1年に2本くらいしか出来ないそうです。



 LARICE(ラリチェ)はラーチを意味するイタリア語です。
T15/20×W155/200×L1500〜2500(乱尺)
サンディングまたはブラッシングの2種類のテクスチャーから、仕上げはオイル、ウレタン、白着色、ウェンゲ色着色など豊富な種類からお選び頂けます。

価格:17,430円/m2〜 (消費税込)
ホワイトデカペオイル塗装

ナチュラル


 
By AD WORLDミラノ 平澤潤子
日本で10年 イタリアで17年
木にこだわり続けています。

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